なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注55

公開: 2021年5月3日

更新: 2021年5月20日

注55. 格差社会

1980年代まで、米国社会では、中産階級に属する人々が最も多く、社会の中心をなす階層であった。この階層の人々は、1960年代から1970年代にかけて著しく豊かにり、その子供たちにもある程度の教育を受けさせる余裕もあった。この階層の人々は、1980年代になり、米国経済の後退とともに、相対的に貧しくなっていった。

もともと国家や地方政府が、国民の福祉に多くを投資しない米国社会では、個人が貧しくなると、社会のあらゆる面に問題が発生する。それでも、1980年代の中頃までは、以前の社会から引き継いだ、プロテスタント的な倫理観を支えにした、「貧しくなった人々」を地域社会で援助する社会的体制は、かろうじて保たれていた。

しかし、1980年代の終り頃になると、従来は中産階級に属していた豊かな人々の多くが、所得の減少で貧しくなってしまった。その結果、中産階級に属する人々の数が、極端に減り、少なくなった。そして、実質的に中産階級の人々の政治力は、人口比率の減少によって、消失してしまった。

貧しくなった人々の多くは、家屋を手放し、子供達の教育すらも経済的に支援することができなくなっていった。良い教育を受けられなくなった子供たちは、将来、良い仕事に就くことが難しい。そのため、その子供たちの将来の賃金は相対的に低くなり、さらに、その子供たちにも影響を及ぼすことになる。

かつては、黒人奴隷の子供たちは、真っ当な教育を受けられずに、貧困から抜け出すことができなかったが、同じことが、1980年代までの中産階級だった人々に起き始めているのである。原題の資本主義の制度では、問題は、親の経済力が、子供達の将来を決定づけてしまうことである。

参考になる読み物

格差社会の衝撃、リチャード・ウィルキンソン、書籍工房早山、2009